果物はおいしいけれど太るとの誤解があります。
千五百八十九人を対象に、りんご百グラムとケーキドーナッツ百グラム、あられせんべい百グラム、ポテトチップス百グラムとを比較をした質問に対し、りんごと比べ、ケーキドーナッツやポテトチップスが高いと正解した割合は八十パーセント前後でしたが、あられせんべいが高いとした正解者は五十五パーセントで、3問ともに正解した人の割合は50.8%でした。
 この結果は少なくとも半数の人は「果物は太る」と考えていると思われます。

 りんごの百グラムあたりのカロリーは54キロカロリーで、ケーキドーナッツは375キロカロリー、あられせんべい381キロカロリー、ポテトチップスは554キロカロリーであり、りんごのカロリーはポテトチップスの10%、ケーキドーナッツの14%にすぎません。
 また、野菜と比較しても、果物のカロリーが多いわけではありません。
りんごはごぼうやわさびよりも低いのです。このことは、カロリーと甘さとは直接的な関係がないことを示しています。

 カロリーを減らして体重を適性値にするためには、りんごの摂取が有効であるとする研究がデラウエア大学で行われました。12人の学生に異なった炭水化物(ブドウ糖、ジャガイモ、パン、米、バナナ他とりんご)の摂取と満腹感との関係について調査したところ、りんごを摂取した学生は、食後30分後の満腹感が最も高く、また2時間後も満腹感が持続しました。

 このことは、りんごを摂取すると満腹感が得られるので、食事量を減らせること、ダイエットなどで摂取エネルギーを減らしたときに感じる空腹感をりんごの摂取で軽減できることを示しています。
 また、ラットにカロリーを同じにして糖質又は脂肪を含む食餌を摂取させたところ、脂肪を多く摂取したラットの体内脂肪は有意に高かったと報告されています。この実験結果は、同じカロリー量なら脂肪分を含まない果物の方が太らないことを示しています。


                            平成16年1月  於:全国りんご流通研究会
                            果樹研究所生理機能部品質科学研究室 
                              − 田中 敬一氏 講演内容から−
果物がダイエットに有効なわけ
 女性を中心にダイエットに対する関心は非常に高く、様々な
ダイエット法が提案され、試されています。過度な減量は健康に良く
ありませんが、肥満を防ぐためのダイエットは生活習慣病予防に有効です。
肥満は、高脂血症、高血圧、糖尿病などの生活習慣病を誘発する危険因子です。

 食べ過ぎが長期間にわたると肥満になります。そのため、摂取カロリー
を下げることが推奨されています。しかし、無理なカロリー制限は長続き
しません。その理由は、食事の楽しみの一つである満腹感が得られないためです。

 満腹感を得るためには高カロリーの食品を摂取する必要があるので
しょうか。最近の研究から、人が満腹感を感じるのは、摂取した
総カロリー量に比例するのではなく、摂取した食品のボリューム
(体積)と関係があることが分かりました。

 肥満と肥満でない20人を対象に低カロリーから高カロリーの食事を
交互にほしいだけ食べてもたったところ、高カロリー食品(3000Kcal)
の半分の低カロリー食品(1570Kcal)でも摂取した食物のボリュームが
大きいと満腹感が得られることが分かりました(文献1)。

 また、男性28人を対象に摂取した食品の体積と満腹感に関する研究
では、昼食の30分前にヨーグルトベースのミルクシェークを摂取して
もらいました(文献2)。摂取してもらったミルクシェイクの体積は、
300ml、450ml、600mlと異なっていますが、カロリー、成分、重量は
同じです。体積だけが異なるのは、ミルクシェークに空気を吹き込ん
でボリュームを大きくしたためです。

 ミルクシェークを飲んだ後、昼食を好きなだけ食べてもらい、摂取
した食品の量とカロリーを調べたところ、600mlのミルクシェークを
食べたとき、昼食で摂取した総カロリーが300mlのミルクシェークを
飲んだときよりも12%も低いことが分かりました。そして、300mlの
ミルクシェイクを飲んだときより満腹感も高いことが分かりました。
このことから、満腹感とカロリーは関係がなく、ボリュームが多い
食品を摂取すると満腹感が得られることが分かりました。

 さらに、女性を3つのグループに分け、満腹感、カロリーについて
調査が行われました(文献3)。第1のグループには低カロリーメニュー
を、第2のグループには中くらいのカロリーメニューを、第3の
グループには、高カロリーメニューを提供しました。この3つのメニュー
は、同じ料理(パスタなど)ですが、食材の中の野菜の量でカロリー
を調整しました。好きなだけ食べてもらったところ、各グループとも
摂取した量は同じでした。このことは、満腹感とカロリーは比例せず、
満腹感は食品のボリュームに関係することを示しています。

 以上の結果から、体積が大きくて、カロリーの少ない食品で満腹感
が得られることが分かりました。この性質を持つ代表的な食品は果物
です。そのため、アメリカ国立生活習慣病予防センター
(National Center for Chronic Disease Prevention)などが、無理のない
ダイエットのために果物の摂取を勧めています。

 健康的にダイエットするためには、無理をしないことが重要な
ポイントです。果物は低カロリーでかつボリュームが大きいので満腹感
が得られます。空腹感に耐えることなく楽しみながらダイエットするの
には果物がお勧めです。